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サイバーセキュリティ

SD-WAN徹底ガイド:SASE時代の土台をどう作るか

クラウドやSaaSが業務の大動脈になった今、拠点ネットワークの「設計思想」をアップデートしないと、通信が詰まり、セキュリティの穴も広がります。その土台を刷新するのが SD-WAN(Software-Defined WAN)。本稿では、従来型WANの課題から、SD-WANの中核機能、SASE/SSEとの関係、導入・運用の勘所、落とし穴まで、現場目線で具体的に解説します。

なぜSD-WANが必要なのか:従来型WANの限界

SD-WANのコア:制御と可視化、そしてアプリ中心の経路制御

SD-WANは、集中管理コントローラが拠点エッジを一元制御し、アプリ単位でポリシーを適用します。代表機能は次のとおり:

SASE/SSEとの関係:ネットワーク土台 × クラウドセキュリティ

SASEは、SD-WAN(ネットワーク面)SSE(SWG/CASB/DLP/ZTNA等のクラウドセキュリティ)を統合するアーキテクチャ。SD-WANがトラフィックを最適なセキュリティサービスエッジへ届け、SSEがアイデンティティ・デバイス状態・コンテンツでポリシーを裁きます。重要なのは、アプリ識別 → 最適経路 → 適切な検査面へ誘導という一連の体験を、ユーザが意識せず享受できること。

導入パターン:現実解の3択

  1. ハイブリッド(MPLS + インターネット):レイテンシに敏感な基幹はMPLS、SaaS/ウェブは直接インターネット+クラウドセキュリティ。段階移行に最適。
  2. インターネット主導 + SSE:MPLSを縮小し、全拠点をブロードバンド/5Gでマルチリンク化。トラフィックはクラウドSWGやZTNAへ。
  3. クラウド直結(IaaS/マルチクラウド):拠点とクラウドをSD-WANでメッシュ化。東西トラフィックもセグメント管理。

ネットワーク×セキュリティの整合:ゼロトラスト文脈での設計要点

KPIとSLO:体感を数字で管理する

よくある落とし穴(そして回避策)

段階的移行ステップ(現実的ロードマップ)

  1. 可視化から:現行アプリと回線品質を30日計測。上位20アプリのSLAを言語化。
  2. PoC:代表2拠点+在宅複数でA/B比較(旧ルート vs SD-WAN)。会議体感+KPIで判定。
  3. セグメント設計:ユーザ/サーバ/OT/来訪者で分割。PCI/医療等の規制要件を先に落とし込む。
  4. ハイブリッド期:重要システムはMPLS温存、SaaSはインターネット直出し+SSEで保護。
  5. 運用自動化:ZTPとテンプレ、IaC(例:ベンダーAPI+Terraform)で展開と変更をコード化。
  6. 最適化:通話/会議の品質向上策(FEC/複製)を有効化し、SLA違反時の自動切替ルールを磨く。

セキュリティ統合の具体(SASE前提の設計例)

拠点エッジでアプリ識別 → 企業SSE PoPへステアリング → SWG/CASB/DLPで検査 → プライベートアプリはZTNA経由で到達。
EDR/MDM/MTDの準拠ステータスをSSE/ZTNAへ連携し、「アイデンティティ × 端末状態 × アプリ」で動的にアクセスレベルを切り替えます。

中小企業(SMB)での勘所

トラブルシュートの型

まとめ:SD-WANはゴールではなく“前提”

SD-WANは、SASEを成り立たせる前提です。アプリを理解し、最適な経路で、適切な検査面に届ける。そこにアイデンティティと端末状態を掛け合わせれば、ユーザ体験とセキュリティを同時に上げることができます。まずは「可視化」から。数字で見えた渋滞に、アプリ指向の道路を敷いていきましょう。


関連:本シリーズ「SASEの要素」 — SWG / CASB / FWaaS / ZTNA も順次公開予定です。