経産省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」――制度の意義と実務対応ポイント
2025年4月14日、経済産業省は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」を公表しました。
これは発注企業・受注企業を含むサプライチェーン全体でセキュリティ水準を可視化・向上させるための枠組みであり、公共・民間問わず影響が大きい制度です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
1. 背景・制度趣旨
近年、サプライチェーンを経由したサイバーインシデントや製品/サービス提供の途絶が繰り返されており、発注企業から受注企業に対して「どのセキュリティ対策を行っているか」という要求が増えています。
しかし一方で、受注側(特に中小企業)には対応リソースが限られており、かつ発注側も「対策の実施状況をどう判断するか」が難しいという課題がありました。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
このような状況を踏まえ、本制度の趣旨は次の通り整理できます:
- 取引先(サプライチェーン)における情報セキュリティリスク・サービス途絶リスクを含む提供ネットワーク上の不正侵入リスクに対応する。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
- 発注企業が受注企業に「適切な段階(★)を提示」できるよう、対策要求の共通化と可視化を図る。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- とりわけ中小企業にとって、適切な対策を選び実施しやすくするための手がかりを提供する。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
2. 制度の構成・評価基準の概要
中間取りまとめでは、評価制度の構成として以下のポイントが提示されています:
- 評価の段階区分:★3/★4/★5 の3段階を基本とし、企業のサプライチェーンにおける重要度(ビジネス観点・システム観点)を基準に区分。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
- 評価対象領域:ガバナンス整備、取引先管理、リスクの特定、システムの防御、検知、インシデント対応・復旧といった観点。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
- 評価の可視化・マーク付与を通じて、発注企業・受注企業双方にとって「どの対策水準か」が明らかになる仕組み。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
3. 企業が備えるべき実務対応
制度が2026年度制度開始を目指していることから、企業(特に受注側)は以下のステップを検討する必要があります:
- 自社サプライチェーンにおける位置づけを把握:発注企業と受注企業、それぞれどの役割か。自社が★3/★4/★5のどれを想定すべきかを早期に検討。
- 自己評価基盤の準備:中間取りまとめの付属資料には★3・★4の「要求事項・評価基準案」が公開されています。:contentReference[oaicite:9]{index=9} これを基に自社のギャップ分析を行う。
- 取引先管理整備:発注・再委託を含むサプライチェーン構造を洗い出し、取引先に対するセキュリティ要求・確認プロセスを設計。
- ガバナンスと運用体制の改築:評価領域に「経営判断・情報セキュリティ委員会」「監視・検知体制」「対応・復旧体制」などが含まれているため、運用レベルまで落とし込む必要あり。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 継続改善サイクルの確立:制度は“対策を実施して終わり”ではなく、定期的な評価・更新が想定されており、企業は運用のPDCA化を意識する必要があります。
4. 注意点・落とし穴
制度導入にあたって特に気をつけるべき点を整理します:
- ★3以上が想定対象であるため、★1・★2相当の既存自己評価制度(例:SECURITY ACTION)のみでは、制度開始後の取引要件を満たせない可能性があります。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
- 制度開始までには「実証事業・制度運営基盤整備」が予定されており、現時点で“制度が実稼働”している訳ではありません。従って先行して準備を進めることが重要です。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
- 評価基準案が公開されているとはいえ、業種・規模・取引構造により“当てはめ方”が異なる可能性があるため、自社固有の評価・要件設計を放棄してはいけません。
- 制度参加=“実質的なセキュリティ運用ができている”とはイコールではありません。評価マーク取得後も運用維持・改善を怠らないことが鍵です。
5. 今後の展望と期待効果
制度が実運用になった場合、以下のような効果・変化が期待されます:
- 発注企業・受注企業双方でセキュリティ対策の共通言語が生まれ、判断・交渉コストが低減される。
- 中小企業を含む下流企業においても、取引先からの“無理な要求”ではなく、自社責任に応じたセキュリティ対策を設計できるようになる。
- サプライチェーンを通じたセキュリティリスクが可視化されることで、被害時の影響拡大防止・事業継続性強化が期待される。
- 国際的なサイバーセキュリティ枠組み(例:英国サイバーセキュリティ庁の「Cyber Essentials」)や国内ガイドライン(例:自動車工業会/日本自動車部品工業会サイバーガイドライン)との整合性も視野に入った制度となります。:contentReference[oaicite:17]{index=17}
6. まとめ
本制度はただの「証明マーク」制度ではなく、サプライチェーンという“複数企業・多層構造”を前提とした、実務的なセキュリティ評価・運用改革の契機です。
発注企業・受注企業いずれの立場でも、「制度開始を待つ」のではなく、「制度想定水準(★3/★4)にどう自社を位置づけるか」を先行して検討することが、2026年度以降の取引・競争力維持において重要と言えるでしょう。