サイバー攻撃の中でも最も厄介で、長期間にわたる被害をもたらすのが「標的型攻撃(Advanced Persistent Threat:APT)」です。単なるウイルス感染やフィッシングではなく、特定の組織・国家・業界を狙い、目的を達成するまで何年も活動を続けるという執念深い特徴があります。本稿ではAPT攻撃の構造、実際の事例、防御の考え方を多面的に解説します。
APTとは「高度で持続的な脅威」という意味を持ち、単発的な不正アクセスではなく、長期にわたって静かに潜伏し、情報を奪取・操作することを目的とします。攻撃者は通常のマルウェアとは異なり、標的の業務プロセス・ネットワーク構造・職員の習慣までも綿密に研究します。
APTの特徴は次の3つです。
中国系とされる攻撃グループAPT10は、グローバルなITサービス企業を経由して数百社のネットワークに侵入。サプライチェーンを悪用し、クラウド経由で機密情報を吸い上げました。日本企業も多数被害を受け、IPAが注意喚起を行いました。
政府機関・報道機関を狙ったスピアフィッシング攻撃で知られ、米大統領選介入疑惑にも関連しました。APT28はメールアカウント奪取、APT29はクラウドへの持続侵入といった異なる手口を使い分けることで知られています。
ランサムウェアと金融犯罪の両面を持つグループ。暗号資産取引所を狙った攻撃で数千億円規模の被害を生じさせ、軍資金として活用しているとみられています。
APT攻撃は段階的に進行します。単に感染して終わるのではなく、以下のようなプロセスで長期的な作戦が展開されます。
標的企業の担当者にカスタマイズしたスピアフィッシングメールを送り、添付ファイルやリンクを通じてマルウェアを導入します。あるいは、公開VPNやWebサーバーの脆弱性を突くケースもあります。
感染後すぐには動かず、まずは内部のネットワーク構成や重要サーバーの場所を調査します。WindowsのコマンドやPowerShellを利用し、一般的な通信に紛れるのが特徴です。
社内で利用されているアカウント情報を盗み取り、管理者権限を獲得。Active Directory経由で他システムに侵入し、最終的に基幹サーバーやメールサーバーを支配します。
ターゲットとなるデータを圧縮・暗号化し、外部へ送信。必要に応じて痕跡を消し、攻撃痕跡を偽装します。破壊行為(ワイパーマルウェア)を行う場合もあります。
APTの被害は単なる情報漏えいに留まりません。機密情報の流出は競争力の喪失や取引先信用の低下を引き起こし、最悪の場合は国家間摩擦に発展します。また、発覚までに平均6か月以上かかるとされ、内部で長期的に観察されているケースも少なくありません。
APTに対抗する最大の鍵は、侵入を前提にした検知と対応(Detect & Respond)です。EDR/XDRの導入による行動分析、SOCやMDRサービスの活用、そして脅威インテリジェンスの共有が欠かせません。
また、ゼロトラストの概念を適用し、内部通信にも認証・監査を徹底することが有効です。VPNよりもZTNA(ゼロトラスト・ネットワークアクセス)を利用し、常に「誰が、どこから、何にアクセスしているか」を可視化します。
APTのような高度攻撃には、インシデント対応チーム(CSIRT)の存在が重要です。感染兆候(異常な通信、認証失敗の増加など)を早期に検出し、即座に封じ込めるプロセスを整備しましょう。さらに、定期的な脅威ハンティング(能動的な検知活動)を行うことで「潜伏を許さない文化」を築くことができます。
標的型攻撃は、もはや一部の国だけの問題ではありません。経済と情報が密接に結びついた現代において、APTは「静かな戦争」とも呼ばれます。防御の要は「見えないものを見る力」。そして、情報共有とリスク意識を組織全体で高めることです。
サイバー攻撃の最前線では、侵入は防げなくても“被害を最小化する設計”が勝敗を分けます。セキュリティとは技術ではなく「組織の判断力」であることを、APTは私たちに突きつけています。
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