のちょうどいい
サイバーセキュリティ

総務省がEDRの導入を推奨している理由

 

まず前提として。

サイバー攻撃は「侵入をゼロにする」ことが現実的ではありません。

入口対策をすり抜ける手口が毎日のように増え、

しかも在宅やクラウド利用で「社外=危険・社内=安全」という線引きも溶けました。

 

そんな状況で、総務省や関係省庁が方針として重ねて強調してきたのが

侵入を前提に「検知・封じ込め・復旧」を回す力です。

その中核に据えられているのがEDR(Endpoint Detection and Response)。

 

EDRとは何か

EDRは、端末のふるまいを継続的に観測し、

怪しいプロセスの生成や権限昇格、横展開の兆候などを見つけ、

早期に検知して、端末隔離などの封じ込めと、

発生から復旧までの対応を一体で支援する仕組みです。

「見える化」「止める」「元に戻す」を端末レベルで素早く回せます。

 

なぜ推奨されるのか(背景と理由)

理由はシンプルで、攻撃の重心が端末と人にあるからです。

メール1通、ブラウザ1クリック、USB1本から侵入が始まり、

その後は端末内で認証情報を奪い、

社内の別端末やサーバに横展開していきます。

 

ここで防御の失敗=被害ではありません。

検知が早ければ「事故」を「未遂」に変えられるからです。

EDRがあれば、「いつ・誰の端末で・何が動いたか」を実時間に近い形で把握し、

対象端末のネットワークを一時遮断し、初動対応を数分で切れます。

 

もう1つ、行政・自治体・重要インフラの現場では、

インシデント後の原因究明と再発防止が必須です。

そのためには完全で改ざん耐性のある操作ログが必要。

EDRはプロセスツリーやコマンドライン履歴、

通信先のドメイン・IPの痕跡を時系列で残し、

フォレンジックの難易度を一気に下げます。

 

さらにリモートワークやクラウド先行の業務では、

境界型の監視だけでは届かない部分が増えました。

「端末がどこにいても守れる」ことは、

今の公共・民間運用の共通要件になっています。

 

EPP(アンチウイルス)だけでは足りないのか

結論、両輪が必要です。

EPPは既知の悪性ファイルを食い止める強い盾ですが、

マクロ悪用、LOLBin(正規ツール悪用)、認証情報搾取のような

ファイルレスふるまいベースの攻撃を取り逃がします。

EDRはこの穴を埋め、侵入の痕跡を拾い、

封じ込めと事後対応まで持っていけます。

 

政策的に重要視されるポイント

被害最小化:侵入を許しても「拡大前に止める」こと。

説明責任:ログに基づく原因説明と再発防止の提示。

レジリエンス:止めても回る業務。復旧計画の前提としての可視化。

標準化:端末カバレッジ、ログ保持、運用体制の均質化。

 

導入で押さえるべき最低ライン

1) カバレッジ:重要端末から順に“全端末化”。

 管理者端末、VDI、役員PC、OT/医療機器は優先度高。

2) 検知品質:ふるまい検知+脅威インテリジェンスで継続更新。

3) 初動自動化:端末隔離、プロセスキル、IOC隔離をテンプレ化。

4) ログ保持:少なくとも数十日~数ヶ月。法的要請や調査に耐える。

5) 体制:24/365が難しければMDR(運用委託)を組み合わせる。

 

よくある誤解への先回り

「EDRは監視だけで重い」→ 調整次第。重要イベントに絞り、

ポリシーを運用に合わせて段階導入すれば体感は大きく変わります。

 

「EDRがあればAVは不要」→ 逆です。併用前提の設計が現実解。

入口で止め、漏れたら掴まえ、広がる前に閉じる。

 

「アラートが多すぎて回らない」→ MDR活用で一次ふるいにかけ、

自社は意思決定と改善に集中する運用へ。

 

段階的な進め方(ちょうどいい道順)

Step1:リスクが高い端末から始める(管理者・特権アカウント・出張用PC)。

Step2:隔離と連絡の手順を決め、机上訓練で回しておく。

Step3:メール訓練・パスワード管理など人の対策も同時に底上げ。

Step4:クラウド・ID・ネットワークのログとつなぎ、

XDR的に相関を見る余地を作る。

Step5:BCP/復旧まで含めた演習を年1回。

 

中小企業・自治体にフィットする設計

・「全部やる」は重いので、基幹・決裁・外部公開に直結する端末から。

・夜間休日はMDRに委ねることで運用の現実解を作る。

・ログ保存はコストと相談しながら、最低限の保持期間を確保。

・PC更新と同時にエージェントを標準バンドル化して定着させる。

 

プライバシーとガバナンス

EDRは端末の操作や通信の一部を記録します。

運用規程で目的・範囲・閲覧権限・保存期間を明確化し、

従業員向けに分かりやすい説明を用意することが鍵です。

「何のために記録するのか」「誰が見られるのか」を明示し、

監査対応にも使えるようにしておくと納得感が生まれます。

 

EDRで得られる具体的な価値

横展開の初動検知:異常な認証やラテラルムーブの兆候を捕捉。

ランサム対策:暗号化プロセスや影響範囲を即把握、封じ込め。

説明責任の証拠:プロセスツリーと時系列で原因を再現可能。

教育素材:実際の自社アラートを教材化し、訓練の質が上がる。

 

まとめ

入口の防御だけに頼る時代は終わりました。

侵入を前提に、見つけて、閉じて、戻す。

EDRはその運用を現実的にします。

そしてそれは、行政や重要インフラに限らず、

あらゆる組織の事業継続(レジリエンス)の土台です。

 

「まずはどこから?」というなら、

重要端末への限定展開+隔離手順の整備+夜間はMDR。

ここから始めれば、費用対効果が高く、

現場の負担も最小で、

守りながら学べる体制が作れます。

 

迷ったら、実機での短期PoCと机上訓練をセットで。

ログが語る「自社の弱点」を一緒に見つけ、

最短距離で“ちょうどいい”EDR運用を作っていきましょう。

 

ではまた。

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